ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「そう、あれはですね、自分をフッた彼女のことが忘れられなくて、ウジウジウジウジ研究室にこもってて――」
「ひーぐーちー」
大河原の目が据わっている。
かなりお怒りらしい。
彼にとっては、あまり触れられたくない話題なんだろう。
ここらへんにしておいた方がいいかな。
今後のビジネスに支障があっちゃこまるし――と考えた僕は、
「諦められないっていう気持ちは、わかりますよ」
助け船を出すつもりで、口を開いた。
「フラれても、彼女に新しい恋人ができても、どうしても諦められない。その人以外の女性なんか目に入らない、っていう気持ち」
「へぇえ、リーさんみたいな方にも、そんな経験が?」
目を丸くした樋口の向こう、飛鳥と矢倉が見えた。
「もちろんありますよ。未だに、他の男が彼女の隣に座ってるってだけで、嫉妬してしまう……もっとも僕は、ただ黙って想うだけ、なんて無理ですけどね」
じっと視線を注いでいると、飛鳥の目が泳ぎだし、頬が染まっていくのがわかった。
自分の言葉が彼女を狼狽えさせたことに、心の中でほくそ笑む。
「真杉さんは、どう思う?」
もっと彼女を動揺させてみたい。そんな意地悪な気持ちが湧いて、反射的に声をかけていた。