ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「あ、あのっ……」
一瞬にして自分がどこにいるか、何をしているか、完全に思い出したらしい飛鳥は、顔を真っ赤にして肩をすぼめ。
「ご、ごめんなさいっ……やだ、私……大声出しちゃって」
あたふたと、濡れたテーブルをおしぼりで拭きだした。
そして。
「ふきん、借りてきた方がいいですね」
視線を上げないまま「ちょっと失礼します」と言いおいて、部屋からバタバタと出て行ってしまった。
<ヘイヘイ、友よ。彼女にのぼせ上がっていることは十分わかったが、少し落ち着きたまえ>
彼女を見送った全員の気まずい視線が、次は僕へと集まる。
打ち上げの席を自分がぶち壊した自覚はあったけれど……こっちは今、それどころじゃない。
何かが、おかしい。
彼女、なんて言った?
――だから、それじゃ駄目なんだってばっ!
想い続けることが、どうしてそんなにダメなんだ?
矢倉に悪いから?
自分一人が幸せになることへの罪悪感?
それとも……別の理由?
そして。
あの必死な顔は、どういうことだろう。
僕への嫌悪じゃなくて。
困ってるっていうか、混乱してるっていうか……
確かに何か、別のものがあった気がする。
「ごめん、すぐ戻る」
チラッと浮かんだだけの疑問。
でも考え出したら我慢できなくて、僕は立ち上がっていた。