ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
人工的に整えられた日本庭園を、ぐるりと囲むように続く廊下の端で、飛鳥を見つけた。
この先に客室はないのか、壁に取り付けられた等間隔のランプが仄明るく照らすだけのそこに人けはなく、かすかに遠くから笑い声が聞こえるだけだ。
柱に手をつき、深呼吸している細い影に、近づいていく。
「飛鳥」
声をかけると、ビクッと彼女が振り向いた。
体調が万全でないところへ、興奮させてしまったせいだろうか。
血の気の失せた顔に、黒い瞳だけがキラキラと美しく煌いていた。
「平気……すぐ行くから。ライアンは戻って。一緒に抜けたら、変に思われ――っ」
離れていこうとする彼女の手首を、とっさに掴んだ。
「っや、やだっ……」
そのまま強引に引きずり、漆喰の壁へと縫い留める。
「ふっ……脈、めちゃくちゃ速いね」
手首へ薄く浮き上がる血管を親指でなぞりながら、わざと耳元で囁いた。
彼女は、今日アルコールを飲んでいない。
だから、指先に伝わるこれは……
「やめて、こんなとこ誰かに見られ、たらっ……」
「じゃあ、2人きりになれるところに行く?」
う、と黙り込んだ飛鳥は、唇を結んだまま顔を背けたけれど。
僕がその頬へ手を伸ばすと、ぴくっと可愛く反応した。