ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「飛鳥さーん! どこですかぁー!? 大丈夫ですかぁー?」
遠くでラムの声が響き、弾かれた様に飛鳥の目がパチッと開いた。
「大丈夫! すぐ戻る!」
叫んで、僕を押しのけると。
彼女の身体がするりと逃げていく。
荒い息を吐きながら、壁にもたれて。
そのままずるずると、座り込んだ。
遠ざかっていく後姿を見送りながら、押し寄せるのは……たまらない幸福感だった。
庭園を吹き抜ける春の風が、のぼせた頭を冷やしていく。
あと数ミリのところでキスを逃したのは、確かに残念だったけど。
それほど気にしてはいなかった。
それより今は。
彼女の心が、まだ僕のものだってことの方が重要だった。
カオスの中から確かに掴んだ真実に、眼裏が熱くなる。
きっと何か理由があるんだろう。
僕から離れなくちゃいけない、理由が。
それが何かは知らないが――もう容赦しない。
こっちはとっくに、限界なんだ。
必ず取り戻してみせる。
どんな手を使っても。