ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「そうなんだ……」
顔を合わさなくてすんで、ホッとしたっていいはずなのに。
ガッカリしてるのは……どうしてだろう。
――飛鳥……飛鳥……
ずっと誰かが、頭を撫でてくれてたような気がしたんだけど。
雅樹だったのかもしれない。
これでいい、のよね。
だって……
――飛鳥、君はまだ、僕が好きだね?
蘇ってきた彼の熱っぽい視線に、胸の奥がトクンと危うい音を立てる。
彼に気づかれた。
一瞬頭が真っ白になるくらい、何も考えられなくて……
もう少しで、キスしてしまうところだった。
あの反応は、絶対まずかったと思う。
なんて言い訳するか、ちゃんと考えておかないと。
来月から、定期的に社内で顔を合わせることになるし。
彼が新条部長を味方につけたのだとしたら、カレントウェブの仕事だって、逃げられないと思った方がいいし――
「……なぁ、飛鳥」
雅樹の改まった声が思考に割り込んできて、私は顔をあげた。
「ん? 何?」
「ずっと調子悪かったらしいけど、“そういう可能性”、全然考えてなかったのか?」
「そういう……可能性?」
何のことかわからず首を傾げると、「マジか」と呆れたような視線が返ってきた。
「ま、一応おめでとうと、言っておくよ」