ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「ちょ、雅樹! これ、どうして、なんで……ライアンが、嘘でしょ、……」
あわあわと、自分でもわけのわからない単語が高速で頭の中を横切っていくけど、一つもちゃんと口にできない。
おかしいくらい、パニックになっているらしい。
「ちなみに、お前を病院からここまで運んで、一晩中つきそってたのはリーさんな。俺はさっき、着いたとこ」
ライアン、まさかずっと……今の話、聞いてた?
もしかして全部これって、私にしゃべらせるための……
と思いついて、ハッとした。
まさか、妊娠っていうのも!?
お腹に手をやる私を見た雅樹が、「あぁ、妊娠は本当だから」と笑う。
「悪いな。ミユキが東京に戻ってくるんだ。あいつを泣かせたくないから」
ミユキちゃん?
うん。それはもちろんよかった、けどっ!
「で、でもそのっ……」
今、ここでそんなこと話さなくてもっ!
「リーさん、つまりそういうこと。俺と飛鳥の間には、何もない。あんたが疑うようなことは、何も」
「……ありがとう。本当に」
「いや、一番お手柄だったのは、腹の中の子だな。登場のタイミングが絶妙だ。将来大物になるかもしれないぞ?」
楽しそうに言った雅樹は、ドアへと歩き出し……おもむろに、「飛鳥」と、その足を止めた。
「俺は、自分の母親を恨んだことはない。産んでくれて、育ててくれて、感謝してる。けどそれは、彼女にその道しか残されてなかったことを知ってるからだ。飛鳥は、違うだろ。お前は、別の道が選べるはずだ」
それから。
「あとは2人で話し合え」と言い残し、ライアンと入れ替わるように部屋を出て行ってしまった。
やがてカチャっと小さく、玄関ドアが開閉する音。
そして完全な沈黙の中に、私たちは取り残された。