ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
どくんどくんどくん…………
今にも煙を上げてショートするんじゃないかってくらい、猛スピードで打ち続ける心臓を、上からきつく押さえた。
崩れ落ちそうになる足に、力を入れる。
私を静かに見つめる翡翠の瞳は、赤く充血していて。
ネクタイを外した襟元は皺が寄っていて。
もしかしたら彼、全然寝てないのかもしれない。
どれだけ彼を心配させてしまったか、想像に難くないけど……
「一つ、確認していいかな」
感情を無理やり押さえつけたような、声がした。
「僕がシンガポールに行って結婚するっていうのは、誰からの情報?」
「そ、れは……」
応えるわけにはいかない。
この気持ちを、伝えるわけにはいかない。
別の道なんて、私たちにはないんだから。
なんとか、この場を誤魔化して――
「だから、えっと……」
なんて言えばいい?