ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「ちょ、ちょっと待って!」
急いで厚い胸を押し返すけど、ピクリとも効果はない。
ますます強く抱き寄せられ、雨のようなキスが降り注ぐ。
「だ、ダメっ……」
「なんで?」
逃げる私の顎を捕えた彼が、止めるつもりはないと見せつけるみたいに、頬へこめかみへ、口づけながら聞く。
「お互いの気持ちが変わってないことは、納得済みだろ。これ以上何を我慢する必要があるの?」
「でもっ! 何も解決してない!」
「解決?」
「ライアンは、シンガポールに行かなくちゃ。そうしないと、お義父さんの会社がつぶされちゃうんでしょう?」
必死で顔をそむけ、逃れながら言葉を続ける。
「私とは別れて、総帥の決めた婚約者とっ――」
「それってさ」
キスを止めてくれた彼だけど、その口調は、再び怒ってるような、苛立っているような……?
「張が、そう言った、って言ったよね?」