ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

額にチュッと軽くキスを落として、彼女の隣へ横になった。
腕を回すと、恥ずかしそうにしながらも、おとなしく体を寄せてくれて。
シングルベッドの窮屈さも、全然苦痛じゃなかった。

全身へ満ちる幸福感に酔いながら、彼女を抱きしめる。

身体の中心では欲望がまだ滾っていたし、
僕だって普通の男だから、この状態を喜んだりはしないけど。

こんなの、飛鳥を想って過ごした眠れない夜に比べたら、どうってことはない。
少なくとも今、彼女の心は僕のものだ。
それだけでも十分だと思ってしまう自分に、末期症状だと呆れながら、
その頭をゆっくり撫でた。


「ごめんなさい、ライアンのことたくさん傷つけて」

僕の胸に頬をつけた飛鳥が、ポツリとつぶやいた。

「でもそれは、僕ためを想ってのことだろう? 飛鳥だって苦しかったはずだよね?」

こくん、と無言のまま頷く飛鳥へ、だからもう気にしないで、と続けようとしたんだけど。
ふと。
胸の一部に熱さを感じて、頭を少し持ち上げた。

「飛鳥……?」

熱の正体は、涙だった。
飛鳥の瞳からこぼれた涙が、僕のシャツを濡らしていた。

「ごめっ……ごめん、ね……」

声を殺し、小さく震えながら泣く彼女は……もう、年上だなんて思えない。
破壊力満点の可愛さなんだ……!

ジリジリと、再び不埒な欲望が集まり出すのを感じて。
「もう大丈夫だから、泣かないで」とささやきつつ、彼女の手をさりげなく握り、引き寄せた。
間違って僕の身体の“ある部分”に触れてしまったら、びっくりさせてしまうからね。

そしてなんとか、自分の気持ちを別のことへ逸らせやしないかと、天井を睨んだ。

< 334 / 343 >

この作品をシェア

pagetop