ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
一体誰だろう。
こんなピュアな人を泣かせて、僕から引き離そうとするなんて。
考え始めるとすぐ、凄まじい怒りが欲望を押しつぶす勢いで噴き出してくるようだった。
誰であろうと、このまま終わると思うなよ――叩きつぶしてやる。
「ねえ飛鳥」
頭を埋め尽くす物騒な考えをひた隠し、柔らかな口調で聞いた。
「聞かせてくれる? 君が会った、張のこと」
「あ……うん」
涙をぬぐった彼女がまず話してくれたのは、彼の外見についてだった。
聞けば聞くほど、それは張じゃない。
彼は「優しそう」とか「いい人っぽい」とか言われたことはあっても、「イケメン」と称されるような顔ではなかった。
外見はずんぐり……クリスマスシーズンのチャリティイベントには、必ずサンタクロース役を頼まれるような、つまりそんな体型だ。
そもそももう、50を過ぎているし。
それを告げると、飛鳥は唇をむぅっと尖らせる。
腕の中に抱きしめたその体を、あやすように揺らし。
「それで? 彼と、どんな話をしたんだ?」と、先を促す。
ふぅ、と観念したように吐息をついた飛鳥は語りだした。
僕の本社入りと、総帥の意向のこと。
父さんの会社へ迫っている、危機のこと。
そして……
「え、上海での話も聞いたの!?」
ギョッと身動きすると、飛鳥は上半身を起こして僕を見下ろし、こくりと頷いた。
「じゃあ飛鳥は、もう詳細を聞いてたんだね」