ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

滲む視界を知られたくなくて。
そのうなじに手をかけて引き寄せ、胸の中に夢中でかき抱いた。
その髪へ顔を埋めるようにして、声を殺す。

君は僕を幸せにする天才だよ、飛鳥。


――目を合わせちゃいけないよ。黄の息子さ。

黄の息子。
黄の息子……

ずっと、目を背けてきた。
自分はもう、生まれ変わったんだと。
忘れようとしてきた。

でもどこかで……怯える自分がいた。

この烙印から、逃れられないんじゃないかと。
黄の亡霊が、いつか現れるんじゃないかと。

ぽっかりと、地獄への穴が、今にも足元に開くんじゃないかと。


「ふふ、くすぐったい……」

身体をひねる飛鳥を、もう一度強く抱いて。
その愛しい匂いを胸に吸い込んだ。

「はぁ、飛鳥の匂いだ……」
「え? ちょ、何やって……へ、変態っ!」
「男なんてみんなそんなもんだよ」

花開くように笑う飛鳥を抱きしめて、かたく心に誓った。


もう二度と、離さない――


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