ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

隣の男は、なぜかカウンターに頬杖をつき、重たい息を吐いている。
仕事で疲れてるんだろうか。

寄越される目線は、冷たくはないが、かといって温かくもなく……そう、ぬるい、って感じだ。


「今のお前に、ぴったりの日本語を教えてやろう。“親バカ”っていうんだ」

なんだ、そんなことか。
ふん、と鼻で笑ってやった。

「知ってるよ。親バカくらい。親バカでいいじゃないか。何が悪いんだ」
「開き直りかよ」

開き直りじゃない。
本気で、そう思ってるだけだ。

親バカになれるのは、親が子どもを愛してる証拠だ。

それがどれほど幸せなことか、僕は知ってる。
そしてそれが、決して当たり前ではないってことも。

だからいいんだ、親バカ万歳じゃないか。


「まぁ別にいいけど。で? 頼みたいことってのはなんだよ? 親バカっぷりを見せつけたいだけなら帰るぞ。こっちだってヒマじゃないんだ」

「あぁごめん、そうだったね」

彼を呼び出した目的を思い出して、僕は名前を書き留めたコースターをジャケットの内ポケットへとしまった。

「探してほしい人物がいるんだ」
「探してほしい……?」

そして僕は、ここ数か月の間に飛鳥との間に起こったことを、簡単に話した。

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