ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「ライアンって、女性だけじゃなくて、子どもにもモテるのね」
優羽ちゃんがおねむになってきてようやく腰を上げ、帰途についた私たち。
ごちそうをお腹いっぱいいただいて、気分は最高、のはずなのに。
助手席側の黒い窓には、頬をふくらませてむくれる自分が映ってる。
「あはは、何それ」
鮮やかにハンドルをさばきつつ笑うライアンを、ムッと睨んだ。
「だって優羽ちゃん、私が抱っこしようとするとエビぞりで泣いちゃうのに」
ライアンには、自分から手を伸ばして抱っこをおねだり。
この対応の違いは、かなり傷ついた。
「なんか……母親なんて、なれる気がしない」
不貞腐れる私の頭へ、大きな手が伸びてきて。
くしゃりと撫でた。
「それは単に、飛鳥に慣れてないだけ。僕は優羽が生まれた時から知ってるからね」
「私だって、初対面じゃないわよ?」
「まだ数回だろ? それに僕は弟の世話ずっとしてたから、抱き方も慣れてるんだと思うよ」
弟?
と聞いて、彼がリビングに飾っている家族写真を思い浮かべた。
弟くんもかなりの長身、イケメンだったな。
「まだ高校生だったっけ?」
「うん。僕が13歳の時に生まれたんだ。小さくて柔らかくて、いい匂いがしてさ……ずっとベッドの脇から見てたよ」
懐かしそうに目を細めるライアン。
きっと生まれたばかりの時のこと、思い出してるんだろうな。
元気いっぱいに泣く、黒髪、黒い瞳の男の子を。