ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
うち――カレントウェブプランニングは、主にウェブコンテンツの制作やシステム開発、メンテナンスを請け負う会社で、亮介は編集兼ライターを担当している。
拓巳が他社から引き抜いてきた人材で、中途入社してまだ1年ちょっとなんだけど。人当たりもよく仕事もできる彼は、あっという間になくてはならないメンバーになった。
そこを見込んで昨年末、オオタフーズという食品会社の案件を頼むことにしたところ……
一緒に仕事を進める広告代理店の担当者がYKDの真杉飛鳥であると知るや否や、文字通り飛び上がって喜んだ。どうやら、前の会社にいた時関わったことがあるらしい。
チーム真杉の仕事がいかに面白いか、飛鳥の仕事がいかにクリエイターたちから支持され、クライアントから信頼されているかを力説された。
自分の大切な人を誉められて、もちろん悪い気はしない。
最初は興味深々で聞いていたんだけど、だんだんそこに仕事相手以上の感情があるようだとわかってくると……途端、モヤモヤとした思いが生まれ。
つまらないヤキモチだとは自覚しながら、早々にくぎを刺してしまった。
彼女は僕のフィアンセだと。
「ふん。真杉さんはモテモテなんだ。ちゃんとつかまえとかないと、逃げられちゃうんだからな。何しろ今度の仕事、カメラマンはあの――」
何やらブツブツこぼしている男を放っておいて、「あぁ、その角で停めてください、一人降ります」と運転手に告げた。
「へ? なんで? 買い物?」
会社まであと数ブロックというところだったから、亮介は不思議そうに首を傾げる。
「ランチまだなら一緒にどうかって、拓巳からさっきラインが……亮介も一緒にくる?」
特に2人でという話じゃなかったし問題ないだろうと誘うと、亮介は「やめとく」と露骨に嫌そうな顔をした。