ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「専務と社長のツートップ、プラス俺って、モブ感半端なくて落ち込むから無理」
「も、ぶ……Mob……カン? 何それ」
「いいよわからなくて。ほら、ついたみたいだぜ。じゃあまた後で」
まったく、日本語って難しいな。
小さくなっていくタクシーを見送りながら、今夜飛鳥に聞いてみようと心の中で決め。
ビル1階、「モンスーン」と飾り文字が躍る店へと入っていった。
◇◇◇◇
ランチタイムを過ぎているせいか、それほど店内は混んでいない。
アジアンキッチンらしい、オリエンタルな雰囲気たっぷりの店内を見回すと……窓際の席に、拓巳の姿を見つけた。
すぐこっちに気づいたらしい。
「お疲れ」と、見ていたノートパソコンを閉じる彼の向かい側に腰を下ろし「例のデータベースシステム、もうすぐ契約とれそうだ」と報告する。
「ん、そっか」
てっきり喜んでくれると思ったのに……相変わらずクールだな。
こいつはあまり業績で一喜一憂しない。
しているのかもしれないけど、それを顔に出さない。
それはいつものことなので気にしないことにして、「日替わりでいい?」と勝手に2人分のオーダーを済ませた。