ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「お前、浮気してないよな?」
「ぶっ!」
お互いの進捗状況をぽつりぽつりと交換して。
和やかに進んでいた会話が、いきなりチェーンソー並みの破壊力でぶった切られた。
「なな、何言いだすんだ、いきなり!」
危うく飲んでいた水、全部吹き出すところだったじゃないか。
「口ごもったな。怪しい」
やたら整ったアーモンドアイが、ジロリと僕を射る。
言い返そうと口を開いた僕の耳へ、
がちゃんっと耳障りな騒音が届く。
振り返ると、ポニーテールの若い女性スタッフが、両手に持ったプレートをぷるぷると震わせながら立っていた。
「ひ、日替わりランチお二つ、おおおお待たせいたしました……」
ガパオライスのプレートを2人分、そそくさと並べると。
「お、お邪魔しました。さ、続きを、どうぞ……!」
ふにゃふにゃと意味不明の笑みを浮かべ、トマトみたいな真っ赤な顔で逃げていく姿を見送り。
一気にがくりと、肩が落ちた。
「……絶対僕たちの関係、変な誤解したよ、彼女」
「別にいいだろ、ほっとけば」
「よくないよ、この店気に入ってるのに!」
腹立ちまぎれに、ドーム状のライスをスプーンでぐさぐさと崩していく。
「だいたい、浮気なんてしてるヒマないの、君が一番よく知ってるだろ」
「ヒマがあればするのか」
「しないよっ! するわけないだろっ!」
「わかってる」と、拓巳はようやく眉間の皺を解いた。
「お前変わったしな。飛鳥さんと付き合い始めてから」