ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

飛鳥と付き合い始めてから……
その言葉に、デレっとニヤけてしまいそうになって、慌てて食欲を満たすことに集中する。

でも……そうだな。
カナダの友人が今の僕を見たら、腰を抜かすのは間違いない。
それくらい、生活が一変したから。

初めは飛鳥に釣り合う男になりたいと、とにかく売り上げを上げることに必死だったけど。
次第に、自分の手で新しい価値を生み出していくという過程自体をおもしろく感じるようになった。

経営や事業戦略の根幹に関わる今の仕事は、パソコン相手に課題をこなしていたバンクーバー時代とはまるで違う刺激があるって気づいて。
それが、思いのほか自分に合っていたこともあるかもしれない。

ビジネスに向いている、とシンガポールの連中に言われ続けてきたけど、確かにそうかもしれないと感じるほど、仕事に打ち込んでる自覚はある。

おかげで、この僕が残業(!)することもあったりして、飛鳥との時間が減ってしまうのは残念だけど……。

いつもはすぐ逃げられてしまう「お帰りなさい」のキスやハグだって、遅く帰った時は僕の気がすむようにさせてくれるし。
それはそれで、嬉しかったりする。

「忙しすぎて、飛鳥さんと過ごす時間がとれないようなら言えよ? お前に案件任せすぎだって、オレもわかってるし」

「どうしたんだよ、突然。らしくないな」
笑いながら聞くと、思いがけないほどシリアスな表情がそこにあって。
つられて僕も、笑いをひっこめた。

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