ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
チラリと拓巳と視線を交わしてから、「ええそうですが」と僕が答えた。
こういうタイプの女性は、彼の苦手とするところだ。
「私、こういうものなんですけど、よかったらちょっとインタビューさせていただけませんか?」
無理やり手の中にねじ込まれた名刺には、聞き覚えのあるエンタメ誌編集部の名前が印刷されてる。
「いえね、たまたま向こうの席でランチしてたんですけど。まさかこんなところでお会いできるなんて、ツイてるわぁあたし! お二人の載った雑誌って、ものすっごく売れるんですよね! 業界でも噂になってますよ。でもプライベートってほとんど明かしてらっしゃらないでしょ? 気になってる女性、たくさんいると思うんですよ。好きな女性のタイプとか、休日によく行くスポットとかぁ! ぜひうちの雑誌で、そこらへんのところ、語っていただけないかと思って!」
マシンガンのように畳みかけられて、僕らは面食らい、黙り込んだ。
『だから言わんこっちゃない』
正面からバシバシ、責めるような視線がイタい。
付き合いのあった編集者から頼み込まれて、拓巳に雑誌のインタビューを受けさせたのが1年前。
反響がよかったらしく、別の雑誌からもオファーがきて。
なし崩し的に、僕まで載ることになり――
確かに会社の宣伝にはなったけど。
ここまで芸能人みたいに騒がれるとは思わなかったからな……
拓巳は無視を決め込んだようで、すでに食事を再開している。
はいはい、僕がなんとかすればいいんだろ。
半ばヤケになりながら、「ええと」と言葉を探し――
そこへ。
「Excuse me!」