ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「別に内緒ってわけじゃないさ。ただ社内ではちょっと話しづらかっただけ」

拓巳の言葉で、ようやく僕はさっきの話題を思い出した。
そうだ、飛鳥が不安を感じてるってことだったっけ。

「何よ何? 話しづらいことってなにっ?」

一旦ナディアの好奇心に火が付いたら、納得するまで絶対引かない。
今までの経験からよく理解している僕は、のろのろと口を開いた。

「僕のフィアンセがさ」
「あぁ、あの小鳥ちゃんね」
「小鳥じゃなくて、飛鳥」
「不思議よねえ、日本語って。あれでどうして“あすか”なんて読むのかしら」
「……聞く気ある?」
「あるある、それで?」
風に舞うティッシュのような軽い口調に若干イラっとしつつ。

「何か心配事があるみたいだって、拓巳が言うからさ」
仕方なく続けると。
ナディアは「なんだ、そんなこと?」とケラケラ笑い出した。
「どうせライアンが浮気したんでしょ。さっさと謝っちゃいなさいよ」

一体どんだけ信用ないんだ、僕は。
確かに昔は遊んでたけどさ。

がくりと落ち込みつつ、もう一度記憶をたどる。

たしかに最近は残業で帰りが遅かったりもしたけど、それは飛鳥だって承知してて。
浮気なんて考えたこともないし、それっぽいこと……口紅が服についてる、とか、そんなこともなかったはずだ。
喧嘩だってしたことないし……と、そこまで思考を進め、


「あ」

ぽろりと、声が出た。

< 53 / 343 >

この作品をシェア

pagetop