ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

いくつかのデータを確認しながら、張への指示メールを打ち込んでいく。

BBBB……
カタカタカタ、とぶつかるような軽い音に目をやると、デスク上に置いていた携帯が鳴っていた。

相手を確認して、ふっと口元が綻ぶ。
昼間データが届いたから、今日中に連絡があるだろうと思っていた。

通話をオンにする。
「はい、もしもし」

『お世話になっております。トワズ新宿店の佐伯です』
弾むような、元気な女性の声が流れ込んできた。

「佐伯さん、デザインデータありがとうございます、確認しました」
『お忙しいのに、さっそくありがとうございます。いかがでしょうか?』
「素晴らしいですね。ぜひ、これで進めてください。デザイナーの方に、くれぐれもよろしく」
『畏まりました。では、お受取日は変更なしということでよろしいでしょうか』
「間に合いますか?」
『はい、ご安心ください』
「よろしくお願いします」

通話を切って、マウスに手を伸ばした。
画面を切り替え、彼女から送られてきたメールの添付ファイルをクリックする。

現れたのは……写真じゃない。ラフなデザイン画だ。
それでも十分に美しさが伝わる――プラチナリング。

来月のバレンタインデー。
飛鳥はどんな顔をして受け取ってくれるだろう?

世界にたった一つだけの、エンゲージリングを。

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