ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

日本に来て驚いたことの一つに、このバレンタインがある。
なんとこの国では、女性から男性へチョコを贈る習慣になっているそうだ。

ところ変われば、ということなんだろうか。
カナダでは男性から女性にっていうのが普通だったから、最初は戸惑った。
しかもなんでチョコ? とか。
嫌いじゃないし、基本的に文句はないけど。

まぁ結局のところ、恋人たちのイベントに性別は関係ない、っていうのが、たどり着いた僕の考えだ。

だからもちろん、飛鳥へプレゼントを用意するつもりだったんだけど。
“プレゼントなしのクリスマス”があって……かなり内容に頭を悩ませたのは確か。

そんな時に、拓巳がクライアントのジュエリーブランド、トワズを紹介してくれて、即決した。

これはバレンタインのプレゼントじゃない。
エンゲージリングなら、さすがの飛鳥も受け取ってくれるだろうと。

ふぅ、と唇から吐息が漏れた。
どんな綺麗な形をしていたって、贈るそれがただの所有欲の証明だってことは、わかってるんだ。

たとえそばにいなくても、彼女は僕のものだと主張したい。
他のどんな男にも、彼女を触れさせたくない。
本音を言えば、僕以外の男の視線にすら、晒したくない――……


BBBB……

手の中の携帯が再び震えだした。

佐伯さんが言い忘れたことでもあるのだろうかと、特にディスプレイを確認することなく出てしまい。


『好久不見(ハオジウブジエン)』


久しぶりね、とささやく鼻にかかった声に、息を飲んだ。

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