ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

<へぇえ、あのライアン・リーが……ねえ>

ふいに嘲るような笑いの混じった声がして顔をあげると。
グラスの縁を、ゴールドに光る爪がカリカリとこすっていた。

<彼女は、知ってるの? あなたとわたしの“関係”>

<話す必要ないだろう? もう昔のことだ>

<ふぅん……話してないのね、上海でのこと何も>

<君には関係ない>

言いながら立ち上がった。


<怖いんでしょう?>



<なんだって?>

僕の足を止めたことに満足したのか、彼女が頬杖を突き、こちらをにんまりと見上げる。


<知った時の彼女の反応が、怖いんだわ。彼女が、石を投げたらどうしようかと――>


<黙れっ!!>



シン……

一瞬、店内の全員が動きを止めた。
客はそれほど多くなかったけど、それでも気まずい思いですばやく踵を返す。


<しばらく日本にいるの。また会いましょう――お兄様>


追ってきた声から、逃げるように足を速めた。

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