ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

パシンっ……

足元に、土くれが舞った。
顔を上げると、パパっといくつもの視線が離れていった。
窓から、ドアの隙間から、物陰から。
しばらくするとまたチラリチラリと、悪意と軽蔑に満ちた眼差しが見え隠れする。

誰か、わからない。
でも、今日は石じゃないだけましだ。

ぼくは、黙々と足を運ぶ。

――目を合わせちゃいけないよ。黄（ホワン）の息子さ。
――あの目をごらん、翡翠好きの黄が好みそうな色じゃないか。
――まるで魔物のような目だこと。
――息子なんていって、どんなことをさせているんだか。


声はもう、ささやきではなく叫び声となって届いていた。
たまらず、両耳を押さえて走り出す。

速く、速く、速く逃げろ！

黄の息子。
黄の息子。


声はどんどん、追ってくる。
どんどん。
どんどん。
膨れ上がって、ぼくを押しつぶそうとする。


――ついていっちゃいけないよ。お前も屋敷に連れ込まれてしまうからね。
――口をきいちゃいけないよ。あんな黒社会（ヘイシャーフイ）なんかと！


ヘイシャーフイ？　それは何？
ぼくは、違う。ぼくは……僕は？　何――