ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
ガバッと飛び起きると……そこは自宅リビングのソファだった。
どうやって帰ってきたんだっけ……
タクシーを拾ったような気はするけど。
直前の記憶をうっすらと思い出して、あたりを見回す。
テレビボードのデジタル時計を見ると、もうすぐ23時だ。
飛鳥はまだ、帰っていないらしい。
暗闇の中、びっしりと張り付いた汗をぬぐった。
ゆるゆると背をソファに戻し、天井を仰ぐ。
ドクドクと、こめかみで脈が荒く打ってる。
呼吸が、まだ恐ろしく乱れていた。
まだ、あった。
独り言ちて。
目の前の景色が、さらに深く闇に溶け込んだような気がした。
――話してないのね、上海でのこと何も。
飛鳥に言っていないことが、まだ。
まだ、ある。
――怖いんでしょう?
違う。
違う。
余計な心配をさせたくないだけ。
もう、捨てた過去だ。思い出したくもない。
僕は生まれ変わって……だから、関係ないだろう?
僕たちの未来には、関係ない。
――お前は、生まれ変わったんだ。過去に飲み込まれるな。未来だけを見つめて生きていけ。お前は自由だ。
黄の家から救い出され、養護施設に預けられていた時。
初めて会った父さんが、くれた言葉。
暗闇を照らしてくれた、光。
力強い口調を何度も巻き戻しながら、一向に静まらない胸をかきむしった。
大丈夫だ。
きっと、大丈夫……