ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
ガチャガチャっ
玄関の方から音がして、パタパタと聞き慣れた音が続き。
パチッ
室内に、暖かなオレンジ色があふれた。
「えぇっ! なんだ、ここにいたの?」
スイッチに手を伸ばしたままの格好で、飛鳥が目を見開いてる。
「真っ暗だからてっきりもう寝てるのかと……」
「うん。いつの間にか寝ちゃってたみたいだ」
「暖房もつけてないじゃない。風邪ひくわよ?」
コートを脱ぎながら、器用にリモコンを操作し、エアコンをつける。
ぬるま湯のような温風を頬に感じて。
ふと気が付くと、あれほどうるさかった鼓動が、嘘のように静まっている。
あぁよかった、とひそかに息を吐きだした。
「女子会、楽しかった?」
「ん? 楽しかったわよ。汐留の方のお店でね、すっごく雰囲気よくて。また一緒に行きましょ。でもほんと、理解できない。柴田さん、あんな素敵な人なのに、今彼氏いないんですって――」
言いながらソファまでやってくると、飛鳥は僕へとかがみこみ、そのまま両手で僕の頬をペタペタと触ってくる。
「やだ、冷たい! 私の手より冷たいじゃない。お風呂沸かしてくるから、ライアン先入って」
とっさに。
自分より小さなその手を掴んで――そのままぐいっと引いた。
虚を突かれたのか、彼女の身体はあっけなく僕の上へと倒れ込んでくる。
「え、……と?」
困惑したように見上げるその瞳も、愛しくてたまらない。
愛しい、愛しい人。