ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
感情を抑えた、けれど泣き出しそうな口ぶりに、心臓が跳ねた。
――話してないのね、上海でのこと何も。
「まさか」
笑い飛ばそうとして、その上ずった自分の声に怯む。
彼女の瞳は、揺るがなかった。
――怖いんでしょう?
「今日はやめましょ。そういう気になれない」
僕を押しのけるようにして、ソファから立ち上がる。
素直に、引くべきだった。
今夜の僕はどこかおかしい。
自分でもわかってた。だから、おとなしくシャワーを浴び、寝てしまえばよかった。
どうしてそんなことをしたのか、わからない。
ただ、僕に見せた彼女の背中が、急に遠のいたように感じて。
彼女が離れた部分、ぽっかり空いた空間の寒々しさに、ぞっとして。
――知った時の彼女の反応が、怖いんだわ。
――彼女が、石を投げたらどうしようかと……
不安か、焦りか、哀しみか……
訳の分からない衝動に突き動かされるように。
気が付くと、彼女の腰を無理やり抱き寄せて、再びソファに押し倒していた。
そのまま両手を頭上でひとまとめにして、拘束する。
「な、にす――っんん!」
背けようとする彼女の顎をつかんで、強引に唇を重ねる。
閉じようとする唇を割り、逃げようとする舌を追いかけ。
無理やりつかまえる。
派手な音を立てて彼女の舌に自分のそれをこすりつけ、唾液を絡ませるようにねっとりと口内をなぶった。