ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

胸の中はまだ、収拾のつかない、いろんな感情でぐちゃぐちゃだ。
あれは……なんだったんだろう。

昨夜のライアンは、いつもと違ってた。

今までだって、奪うように激しく抱かれたことは何度もあるけど。
いつだって、拒むことなんてできないくらい心地よく酔わせてくれて。

あんなふうに私の気持ちを無視して進めたことなんてなかった。

嫌だったのに……
抱いてほしくなかったのに……あの香水を纏った身体で。


昨日の朝、会社でのことだった。
あの広告を見たのは。

広告代理店という職場柄、毎日のように届く見本誌。
デスク上に山と積まれたそれらの中から、自分が関わった広告だけチェックしようと、ある1冊をパラパラとめくっていて……見つけてしまった。
彼女の、インタビュー記事。

『二胡奏者シンシア・チェン 
Eトレーディングプレゼンツ・日本ツアー直前インタビュー』

楽器を抱えた黒髪の美女が、少し首を傾げ、妖艶に微笑んでいた。

シンシア・チェン――ライアンの、昔の恋人。
あの人、ミュージシャンだったんだ。
心がざわざわと、波立った。

雑誌を閉じてしまえばいいのに、私の目は勝手に文章を追っていた。

記事では、チャイニーズアメリカンである彼女が、どのように中国古来の楽器と出会い理解を深めていったかが、質問に答える形で語られ、さらに今回のツアーで演奏する曲について紹介と解説がされていた。

内容は、ごく一般的――でも。
ラストまで読み進んで、雑誌を持つ手がビクリと振れた。

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