ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

『日本各地を回られるということで、お忙しいとは思いますが、特にプライベートでご予定されてることなどありますか?』

『実は東京に逢いたい人がいるんです。半年ぶりくらいかしら。すごく楽しみで』

『もしかして、恋人ですか?』

『ふふ。ご想像にお任せします』


それって……ライアンのこと?
2人は、東京で会うかもしれない?

根拠もないくせに、その考えは頭にこびりついて離れなくなった。


――彼は危険な男よ。

――あなたみたいな、平和ボケした国で育ったのほほんOLじゃ、手に負えないわよ。


たぶん、彼女は知ってる。
私の知らない、彼を。

カナダ時代……あるいは、それよりもっと前のことだって……


――ごめん、この話は暗くなっちゃうから……また別の機会に話すよ。


彼の言葉を、信じていればいいだけなのに。
黒くて醜いこの感情は、暴れまわるばかりで。

誰かに愚痴を聞いてもらえたらと思うものの、
この年になると、気軽に飲みに誘える友達もどんどん少なくなるのよね。
しかも、まだ週半ばだしな。

だから昨夜は一人でバーでも行って、ぱぁっと飲むつもりだった。
家に帰って彼の顔を見るまでに、気持ちを落ち着けようと思って。

そうしたら。
最後に寄ったクライアント、サンビバレッジの担当者、柴田香菜(しばたかな)さんから、「いい店見つけたんだけど、飲みに行かない?」って運よく誘ってもらえて。
渡りに船と、乗ったのよね。

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