ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
あの人と、同じ香り。
急速に冷えて強張っていく、自分の身体を感じながら。
彼の胸を、ぐいっと両手で押し返した。
――飛鳥……?
はずしたボタン、はだけた胸元……
荒い鼓動を伝えるように振動するそこは、恐ろしく色っぽくて。
再び引きずられそうになる自分を、一生懸命押しとどめる。
誰と会っていたの?
もしかして、彼女と、会ってたんじゃないの?
詰りそうになる口を、もどかしく動かした。
――ライアン……何か私に隠してることはない?
――まさか。
笑ってるのに、いつもの笑顔なのに。
どうしてだろう、彼が恐ろしく遠く感じるのは。
彼女と一緒だったなら、そう言えばいい。
私、そんなことで怒ったりしない。
隠すってことは、やましい何かがあるってことじゃないの?
――今日はやめましょ。そういう気になれない。
不穏な調子で乱れる気持ちを落ち着かせたくて、無理やり彼の下から抜け出して……
でも数歩と離れないうちに、いきなり腰が強引に後ろへ引かれ。
また背中が、さっきと同じ、柔らかな感触をとらえていた。
ソファに逆戻りしてると気づいた時には、両手は頭の上でまとめられ、身動きできなくなっていて……そのまま、彼の欲望に飲み込まれた。