ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
彼が頬を寄せるたび、舌が卑猥な音を立てるたび、
あの香りが、ふわりふわりと、あざ笑うようにまとわりつく。
やめて。
やめて。
その香りを纏った体で、抱かないで。
――ライアン、や、嫌なの! 嫌だって、今日は――んぅっ!
嫌だと言っても、抵抗しても。
やめてくれなかった。
どうしたらいいのかわからなくて。
ただ彼の下で、身体を固くして……
でも、どれくらい経った時だっただろう。
偶然交差した眼差しに、ドキリとした。
それは欲情に駆られた男のものじゃなくて。
まるで迷子の子どものようだったから。
いつもの陽気な明るさは、欠片もなくて。
今にも泣き出しそうな、曇り空のようにくすんだ瞳で。
ロボットみたいにガチガチだった身体から……力が抜けた。
何があったんだろう。
どうして何も話してくれないんだろう?
頭の中は疑問符だらけで。
彼が寝入った後も、結局一睡もできなかった。
明け方。
まだ眠ってる彼をおいて、逃げるように出てきちゃったけど……
帰ったらちゃんと、話し合わなくちゃな。