ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
私には何もできないかもしれないけど。
それでも知りたい。
彼が何か抱えてるものがあるなら、それを分けてほしい。
だって私たち――結婚するんでしょう?
「……さん、飛鳥さんっ!」
くいくいっとジャケットを引っ張られて、我に返った。
辺りを見回すと、そこはオオタフーズ1階受付。
いけないいけない、ちゃんと仕事しなくちゃ。
ようやく今日の目的を思い出して。
「ごめん、ぼうっとしてた」ってラムちゃんに謝った。
すると。
「飛鳥さん、あっち」
視線をくいっと、前方へ促された。
そちらを見やった私は、ロビーにいた全員が、ピシッと姿勢を正して同じ方向を注視していることに気づいた。
「いってらっしゃいませ」
挨拶の声、そして丁寧なお辞儀。
その先にいたのは、珍しく外出するらしいコート姿の大河原さんだった。
「大河原部長、ご無沙汰しております。お出かけですか」
声をかけると、「あぁ真杉さん、どうも」、と軽く手は挙げてくれたけど。
表情も変えることなく、さっさとガラスドアの向こうへ消えてしまう。
相変わらずの塩対応だなぁ、と見送っていたら。
「ぷっはぁ……!」
後ろで盛大に息を吐く音――ラムちゃんが上下する胸を押さえ、よろめいた。
「ラムちゃん?」
「オニガワラオーラ、威力ありすぎ! 息するの忘れちゃった」
「ら、ラムちゃん!」
ギョッと口を押さえたときは、すでに遅し。
ロビーにいた社員たちがくすくす笑い出して、穴があったら入りたいくらいだった……。