ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「すいません……つい本音がでちゃったんですぅ」
「もういいから。次から気を付けてね」
「はぁい……」
しゅんと萎れる彼女を促し、エレベーターから降りた。
「初対面の名刺交換の時、あのオーラにビビりまくって、チワワみたくブルブルしちゃって。それ以来、なんか苦手意識が抜けないんですよぉ……」
うーん、そうだな。独特の雰囲気はあるかもしれない。
開発部をまとめる大河原さん――大河原司(おおがわらつかさ)部長は、ヒット商品を数多く手がけた、同社の救世主的存在の人。
自分にも他人にもとても厳しい人で、それをはっきり口や態度に出す人だから、影では『地獄のオニガワラ』なんて呼ばれてるらしい。
「飛鳥さん、よくあの人と平然としゃべれますよね。しかも名前覚えてもらってるとか、すごすぎるし!」
「別に……普通の人よ?」
「どこがですかっ!」
たしかに私も、最初はどう接していいか戸惑ったけど……厳しいだけで、イジワルなわけじゃないし。
ものすごく頭のいい人だから、一緒に仕事させてもらうと学ぶことが多くて。
最近はオオタフーズにお邪魔するのが楽しみだったりもする。
「そういえば大河原部長が白衣着てるとこ、理系の教師って感じしません?」
「あぁそうね。似てるかも」
「だからかなぁ、先生に叱られてるみたいな、そんなデジャヴっていうか」
「叱られたんだ?」
「そりゃもう! えへへ」
なるほど、と笑いをこらえながら、目指す第二会議室をノックした。
廊下に面したすりガラス越し、すでに席についている誰かが見える。
「YKDです。失礼しま……あ」
パッと振り向いたスーツ姿の男性を見て、私は声を上げた。
「田所さん!」
「真杉さん、お疲れ様」
今回制作全般を担当する、カレントウェブの専属ライター田所亮介さんが、白い歯をこぼしてニッと笑った。