ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
去年の秋、初めてライアンの会社と一緒に、オオタフーズの仕事をすることになって。
ドキドキしていたことは認める。
もしかしたら彼が担当になってくれるんじゃないかと……まぁ、そんなにうまくいくはずはなかった。彼は役員だしね。
それでも、担当者として田所さんが現れたときは、びっくりしたな。
以前よく仕事を依頼してた、顔見知りのライターさんだったから。
転職したって聞いて残念に思ってたんだけど……まさかライアンと同じ会社にいたなんて。
世間って狭いんだなぁって実感しちゃった。
「田所さぁん! お疲れ様です!」
「お、ラムちゃんお疲れ~今日も張り切ってるね」
「え、わかります?」
「わかるよ。でも頼むから、ハル君オンリーじゃなくて、一緒にいるおれや真杉さんのことも、ちょっとは考えてくれよ?」
「えへへ~了解でっす」
野球少年がそのまま大きくなった、みたいな短髪に日焼けした顔。
初対面でも壁を一ミリも感じさせないそのムードメーカーぶりは健在だ。
ラムちゃんも、あっという間に懐いちゃったしね。
心強く感じながら椅子に座り、カバンを探って資料を取り出していると。
「そうだ、真杉さん」
田所さんに呼ばれ、顔を上げた。
「樋口さんが来る前に話しておきたいんですけど……カメラマンのことで」
「カメラマン? えぇ、なんでしょう?」
カメラマンについては、今回はオオタフーズ側がいつも頼んでいるという人にお願いする、ということだったから、特にうちはタッチしてないんだけど……
首を傾げると、田所さんはなんだか言いにくそうに、口ごもった。
「ええと……それが誰か、ご存知ですか?」