ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
珍しいな、こんなしどろもどろの彼は。
「いいえ、知りませんが……」
樋口さんが連絡するって言ってたし、心配してなかったけど。
もしかして、直前になって予定でも悪くなったとか?
そう聞くと、田所さんは首を振る。
「いえ、そういうことじゃ……日程の問題じゃなくて。おれもこの前まで知らなかったんですけど。その人がまさか――」
コンコン!
ガチャ
背の高い男性がひょこっとドアから顔をのぞかせたため、田所さんは口を噤んでしまった。
「みなさん、おそろいですか」
ぐるりと首を伸ばして見渡したこの人が、広報部主任の樋口さん。そしてラムちゃんの彼氏、である。
「お待たせしてしまって、すみません」
彼を見るなり、隣で落ち着きなくそわそわ、お尻を動かしだす気配。
飛びつきたいのを必死で我慢してるチワワを思い起こさせて、なんとも可愛い。
緩んでしまいそうな口元を引き締めながら、頭を下げた。
「よろしくお願いします、樋口さん」
「はい、よろしくお願いします」
樋口さんはラムちゃんに一瞬だけ、照れたような笑みを投げてから、田所さんの隣へ腰かけた。
そういえば、さっき田所さんは何を言いかけたんだろう、と気になったけど……樋口さんがテーブルに広げた紙の方に注意を奪われてしまった。