ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「来週の選考会では、優勝作品の撮影はしないんですよね?」

「そうですね。後日改めて、ということになります。選考会の様子、みたいなカットは撮ってもらうと思いますが」

「カメラマンは、以前お話してた方で大丈夫そうですか?」

「ええ、そのつもりです。スケジュールもOKということなので。今後は田所さんから連絡していただいていいですか?」

「了解です」

チラッと流れてきた田所さんの視線で、さっきの会話を思い出した。
彼がわざわざ言うってことは、私が知ってる人なのかもしれない。

「どんな方なんですか?」って好奇心から聞いてみた。

あぁ、と樋口さんが私へ顔を向ける。
「料理写真だけじゃなく、人物も風景も、いろんなお仕事されてる方で……。もしかしてご存知じゃありませんか、矢倉雅樹(やぐらまさき)さんっていう方なんですけど」


え……

その名前をリピートした頭が、一瞬空白になる。

それから――あぁ、と腑に落ちた。

田所さんの方を伺うと。
その目が、ためらいがちに聞いてくる――大丈夫ですか、と。

そっか。
彼が話したかったのはこれか、って思い当たった。
当時、私たちのことは仕事仲間ならみんな知ってたからな。
でも気にすることないのに、とこっそり、安心させるように頷いておく。

まぁ、この業界にいる限り、いずれそういう日が来るだろうと覚悟はしてたし。
だから平気だ。
いつまでも昔の恋愛なんて引きずっていたら、仕事なんてできない。

そう。
矢倉雅樹は、私の……元カレ、というやつだ。
< 85 / 343 >

この作品をシェア

pagetop