ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
誰かと待ち合わせかな、なんて視線を奪われていると。
彼の目がまっすぐ、私へと注がれてることに気づく。
え……しかも、こっちへ近づいてくる……?
知り合いだっけ?
と、記憶を探ってみる。
ううん。こんなイケメン、一度見たらそうそう忘れないだろう。
でも……向こうは確かに私を知ってるみたい。
足取りに全く迷いがないもの。
道を聞きたいとか、そういうことじゃないらしい。
疑問符だらけの私の前で歩みを止めたその人は、深々と腰を曲げ、慇懃にお辞儀した。
「初めてお目にかかります。真杉飛鳥様、でいらっしゃいますね?」
「あの……?」
「突然このようにお声がけして、申し訳ありません。ファイスメディア代表取締役、李健(リー・ジエン)の第一秘書を務めております、張理勇(ヂャン・リヨン)と申します。日本語読みでかまいません。張(ちょう)とお呼び下さい」
差し出された名刺の名前を見て、ようやくあぁと頷いた。
お義父さんの秘書、だ。
クリスマスの朝、電話をかけてきた人よね。
じゃあこの人……中国人?
にしては、あまりに流暢な日本語で、ギョッとしてしまう。
ライアンの周りの人って、どうしてこんなに日本語がうまいんだろう。
自分の英語力を思い出して、悲しくなる。
「少々お時間をいただきたいのですが、構いませんか?」
透明なレンズの向こう。
エレガントな口調を裏切る、有無を言わせぬ眼差しとぶつかって……トクリと、心臓が心細げな音を立てた。