ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
私の……せい?
そこに潜む穏やかでない雰囲気に、私は無意識に姿勢を正していた。
「どういう、ことですか?」
「ライアン様が以前、リーズコーポレーションのシンガポール本社へ入社する予定だったことは……ご存知で?」
「あ……はい」
覚えてる。
重役待遇で迎えられる予定だったこと、そしてその話を蹴ったことは、プロポーズの時話してくれた。
リーとは離れて生きていくって、絶縁宣言してきたって。
リーの名前に頼らず、自分の力だけでどこまで行けるか、やってみたくなったって言ってたっけ。真っすぐ、迷いのない眼差しをして。
「本社入りはグループのトップ、フレデリック・リー総帥――社外では“会長”や“CEO”と言うことが多いのですが、内部の者は敬意をこめて“総帥”とお呼びしております――ご本人から直々に、いただいたお話でした。以前より総帥はライアン様の能力を大変高く評価し、ぜひお傍にとご希望されてらっしゃいましたので。しかしライアン様は、そのご意向に逆らった」
「怒ってらっしゃるんですか、そのこと……リー総帥は」
まさかそれで、仕返しでもするつもりなの?
「いえ、反対です。大変喜んでいらっしゃいます」
「……は?」
ぽかんと口を開けてしまった私に、張さんは表情を変えないまま、できの悪い生徒を諭す教師のように語りだした。