ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
――仕事仕事で疲れちゃって……一人でベッドに入るとき、ものすごく寂しいんです。
――誰かに慰めてもらいたいなって。
ダイレクトな表現こそなかったが、彼女の目的なんてはっきりしてるじゃないか。
お望み通り、抱いてやるさ。
夢中にして、こっちに寝返らせてしまえば、情報なんか引き出し放題だ。
――何人もの男がマユミに手玉に取られてんだぞ。ミイラ取りがミイラ、なんてことにならないだろうな?
心配する貴志に、僕は笑って見せた。
自信はあった。
未だかつて、狙って落とせない女などいなかったから。
そして迎えた5月の最終金曜日。僕はもう、半ば仕事など終わった気持ちになって、シェルリーズホテルに入っていった。
ロビーで、今回の協力者であるコンシェルジュ、都築(つづき)に軽く挨拶してから、待ち合わせ場所のラウンジへ向かう。
ボーイに化けた貴志の姿を確認した後、カウンター席に座って。
念のためにと、ホテル内のブティックに電話を入れておく。
「やあマリー、そろそろターゲットが到着するよ。段取りはOKだよね?」
『はい、お任せください』
落ち着いた声に、丸みを帯びた赤い頬を思い出す。
母さんくらいの年齢だったかな。彼女もまた、今回の仕事内容を知る、SDの協力者だった。
「名前は、マユミ。スリーサイズは……まだわからないけど、店にあるもので大丈夫だと思うよ」