ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

あの時彼はすでに、シェルリーズホテルのスキャンダルをマスコミに密告するという規律違反を犯してる。
だからこの上、リー総帥の意向に反してグループを離れることは、周囲に影響を――特にお義父さんへ――及ぼすかもしれないと、承知していた。

そこで、いざという時自分の味方についてくれそうな人を集めるため、奔走していたそうだ。

「取締役会メンバー、お一人お一人のデータを、十分吟味なさったのでしょう。不振事業の改善策、提携先の紹介、新規事業の提案と資金集め……それはとても短期間で組み立てたとは思えないほど鮮やかなプランばかりで、2カ月後にはほとんどの取締役がライアン様に心酔し、協力を約束したそうです」


頬が、じわっと熱を帯びる。


――飛鳥はね、僕に新しい翼をくれたんだ。鳥かごから飛び出すためのね。


あの言葉をくれた時にはもう、彼は飛び始めていたんだ。
緩んでいく一方の頬を押さえてうつむいた私は、次の一言でビクッと慄いた。


「それが、仇(あだ)となりました」



「あ、だ?」

「会社の発展にとって不可欠であり、かつライアン様になかったもの――“野心”をようやく彼が手に入れたと、総帥は非常に喜ばれ……結果、皮肉なことですが以前より強く、ライアン様を是が非でも手元にと、望まれるようになったのです」

「そんな……」

離れようとしてとった行動が、逆効果だったってこと?

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