ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「そんな……」

カラカラの喉を潤したいのに、目の前のコーヒーにも水にも、手が伸びない。
私の両手は今、膝の上で必死に握り締められてるから。

その手を震わせるのは――怒りだ。


これじゃまるで、彼にスケープゴートになれって言うようなものだ。
そんなことをして、彼の一生を縛る権利、誰にもないでしょ?

彼の人生は、彼だけのものだ。

「ですから、あなたには身を引いていただき――」
「お断りします」

きっぱりと言って、前を見ると。
サイボーグのようだった表情が、わずかに動いた。

「断る?」
「はい」

ふぅ、と張さんは小さく頭を振った。
「確かにライアン様は、結婚相手としてベストでしょう。33歳のあなたとしては、しがみつきたくなる気持ちもわかりますが――」
「32です!」
前のめりにツッコんでしまってから、ささっと背中を椅子へ戻した。

コホっと咳払いしてから続ける。

「誰だって、自分の人生を自分で決める自由くらいあるはずです。国王だろうと総帥だろうと、それを歪める権利はないと思います」

彼の未来は、彼のものだ。
それを、守りたい。

もちろん、ライアンが優秀な人だっていうのは、私も賛成だけど。
ふさわしい人材は、他にもいるだろうし。
お義父さんの会社の業績だって、リーズグループに頼らずに回復させる方法があるんじゃないかな。
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