ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
――ライアン様の生みの親については、不明です。信じられないかもしれませんが、貧しい夫婦が金のために子どもを売るというのは、世界を見渡せばまだまだ、それほど珍しいことではありません。彼もまた、そういう一人であったのでしょう。
そうして売られた先が……チャイニーズマフィアだった、なんて。
以前、彼の喧嘩の強さが『マフィア仕込み』だと聞かされたことはあったけど。
まさかの本物、とか。
誰が想像する?
――急速に近代化を遂げていた中国・上海市にも、まだ魔都と栄えた時代を惜しむ輩がいたのです。その筆頭が、黄金栄(ホワン・ジンロン)という男でした。ライアン様の、一人目の養父です。
映画かドラマのストーリーを聞いてるみたい。
現実のことだなんて、全然信じられない。
そりゃ日本だって、ヤクザの抗争とか麻薬の密輸とか、新聞に載ったりするけど。
自分の身近な人と関わりがあるかもなんて、考えたこともなかった。
――ライアン様にとって幸運だったのは、彼が9歳の時、万博などの国際イベント誘致を目指した上海市が、市をあげてマフィア掃討に乗り出したことでしょう。市内に多くの会社を持つリーズグループも協力要請に応じ、多額の資金援助をしたと聞いております。
そのかいあって、黄の屋敷や関連施設は強制捜査を受け、制圧された。そして公安との銃撃戦の中で黄が死亡すると、ファミリーは完全に消滅することとなったそうだ。
屋敷からは、武器製造や密輸など数々の犯罪の証拠が発見されただけでなく、10数名の子どもたちが保護されたという。その中の一人が、ライアンだった。