after「恋がしたい。ただ恋がしたい。」

「香織……あんたさ、ひょっとして裕介が毎日毎日お客さんからキャーキャー言われてるのを気がついて無いって本気で思ってたの?」


紫の問いかけに、私が何も返事をしなかったのが答えだと、どうやら悟ってくれたらしい。


「……んな訳ないでしょ。コイツはね、それに気がついてて、かつ店の雰囲気とお客さんの機嫌が悪くならないように鈍感なフリして、『もー、本気で言ってるのに全然気がついてもらえないんだからー』……ってトコまで誘導すんのよ。うまーくね」


裕介くんが『Felitita』にいた頃、裕介くん目当てのお客さんもたくさんいるよねって言ったら、


「誰も僕の事なんて見てないって。みんなご飯食べに来てるんだから」


なんて返されたし、しょっちゅう声を掛けられたり、『彼女いるんですか?』なんて聞かれるでしょ?って言ったら、


「それくらい挨拶みたいなもんでしょ?」


ってさらりと流された事があったっけな……とぼんやりと思い出していた。



そっか。あれも、黒王子の計算だったのか……


< 12 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop