Baby's Breath
「香山先輩、お待たせしました」


部署に戻って香山先輩に資料を手渡す。


私を振り向いた美人は無表情で私を見た。


「ありがとう、相原さん」


香山先輩はとても美人だ。


性格はクールで、周りの人達は近づきにくいと言っていた。


基本的に無表情だし、何を考えているのか分からないかららしい。


でも私は香山先輩が好きだし、とても尊敬できる人だ。


それに、香山先輩には私と愛空が付き合っている事を知られている。


偶然、愛空が私にキスしようとしている場面を見られたのだ。


愛空があんな場所でキスしようとするから……。


でもその時香山先輩は『私はいいと思う』と言ってくれた。


「そうだ、相原さん。今日って仕事終わったあとに時間ある?」


「え?ありますけど……」


「一緒にご飯食べに行かない?鹿野くんも誘って」


「愛……鹿野くんも…?」


そう聞くと香山先輩は無表情で頷いた。


「ちょっと聞いてもらいたい事があるの」


香山先輩の相談。


いつも私を助けてくれている先輩の相談なんだし、聞かないと失礼だ。


私は頷いた。


「ありがとう。またあとで連絡する」


香山先輩はそう言うと仕事に戻った。


私も仕事に戻る。


相変わらず私に対しての視線は痛い。


________________________________


仕事を終えてロビーで先輩を待つ。


受付には綺麗な人達がいて、彼女達も帰りの用意をしていた。


その受付に同期の女の子。


水谷(みずたに)果菜(かな)さん。


可愛くて、同期達にも人気で、お姫様扱いされている女の子。


……私の事を一番いじめてくる人。


「うわー。帰る前に嫌なもの見ちゃった」


私に聞こえるように言うあたり性格悪いな。


私は顔をあげずに下を向いていた。


「また鹿野くんに付きまとってるの?いい加減やめないと本気で訴えられるよ?警察に行かないといけなくなるかもね」


そう言ってクスクス笑う水谷さん。


別にストーカーしてるわけじゃないし、むしろ付き合ってるんだけど……。


そんな事は当然言えずに固まったままでいた。

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