ラブレター【完】
星川先輩の話が終わって、みんなが個人練習を始める中、わたしは組み立てたクラリネットとケースを持ったまま音楽室を出た。
もちろん第二音楽室に行くため。
個人練習は基本的にどこでしてもいいし、いつ終わりにしてもいいのだ。
まあ、わたしは第二音楽室で練習するわけじゃなく、ピアノを弾いて遊ぶんだけれど。
今日は『雨だれ』さんから返事来てるかなあ……。
わたしはちょっとだけ緊張しながら、第二音楽室のドアを開けた。
そしてすぐに、黒板に視線を送る。
黒板には、おとといわたしが書いた「雨だれさん、あなたは誰?」という文字はなく、代わりに
「ひみつ」
大きな文字で一言そう書いてあった。
返事が来たことがなぜかとても嬉しくて、少しだけドキドキした。
相手が誰なのかわからないのにドキドキするなんて、なんだか変な話だ。
とりあえずクラリネットとケースを教壇の上に置いて、黒板の大きな文字をすっかり消した。
うっかり他の人が入って来た時に、見られたくないもの。
これはわたし宛のラブレター、わたしだけのものだから。