ラブレター【完】

それにしても、どうして秘密なんだろう。

すごく恥ずかしがり屋さんなのかなあ。

気持ちだけ伝えられても、ありがとうすら言えない。

好きになってもらえて、すごく嬉しいのに。

それに、人生初めての恋愛フラグなのに、相手もわからないなんて。

相手がわからないんじゃ、ここから何も発展する可能性すらないってことだ。

そんなのつまらない。

今日も冷たいピアノの椅子に腰かけて、わたしはポーンと鍵盤を叩いた。

たまたま叩いた音がファの音で、ふとある曲が頭に浮かんだので、右手でメロディを追った。

タイトルは「初めて」。

昔の韓国ドラマの中で使われていたらしい、すごく静かで綺麗で切ない曲だ。

ある日ママが家で弾いていて、あまりに素敵だったから「それなんて曲?!」と飛び付いたほどだ。

「初めて」は初めての恋のことらしい。

……初恋かあ。

わたしの初恋はいつ訪れるんだろう。

初めてのラブレターは、確かに初めての恋を予感させるのに、『雨だれ』さんは名乗ってくれない。

それはなんだか少し淋しくて切なくて、まるで会えない恋人を想う気持ちみたいだなと、経験もないのにそう思った。
< 11 / 90 >

この作品をシェア

pagetop