ラブレター【完】
それにしても、どうして秘密なんだろう。
すごく恥ずかしがり屋さんなのかなあ。
気持ちだけ伝えられても、ありがとうすら言えない。
好きになってもらえて、すごく嬉しいのに。
それに、人生初めての恋愛フラグなのに、相手もわからないなんて。
相手がわからないんじゃ、ここから何も発展する可能性すらないってことだ。
そんなのつまらない。
今日も冷たいピアノの椅子に腰かけて、わたしはポーンと鍵盤を叩いた。
たまたま叩いた音がファの音で、ふとある曲が頭に浮かんだので、右手でメロディを追った。
タイトルは「初めて」。
昔の韓国ドラマの中で使われていたらしい、すごく静かで綺麗で切ない曲だ。
ある日ママが家で弾いていて、あまりに素敵だったから「それなんて曲?!」と飛び付いたほどだ。
「初めて」は初めての恋のことらしい。
……初恋かあ。
わたしの初恋はいつ訪れるんだろう。
初めてのラブレターは、確かに初めての恋を予感させるのに、『雨だれ』さんは名乗ってくれない。
それはなんだか少し淋しくて切なくて、まるで会えない恋人を想う気持ちみたいだなと、経験もないのにそう思った。