ラブレター【完】
放課後はいつも通り部活だ。
パート練習が終わって第二音楽室に行こうとしたら、パートリーダーに呼び止められた。
「鈴木さんはもうちょっと練習ね」
「……はあーい」
普段個人練習をサボっているせいで、下手っぴ過ぎて30分くらい居残り練習をさせられてしまった。
自業自得だ。
ようやく解放された頃には、下校時刻まであと10分しかなかった。
あーあ、今日はピアノ弾けないや。
怪獣のバラードの練習しようと思ってたけど、仕方ない、家でやるか。
とりあえず『雨だれ』さんからのお返事だけ確認しなきゃ。
わたしは急いで楽器を片付けて、第二音楽室へと向かった。
ドアはいつも通り開け放たれていた。
柔らかい夕日が窓から差し込んで、教室の中はまるでセピアの写真みたいに素敵だ。
黒板には、今日は黄色のチョークで、やっぱりでかでかと返事が書いてあった。
「趣味は読書だよ。他に聞きたいことは?」
趣味は読書かあ。
なんだか、ますます透くんのイメージに近くなって来た。
でも星川先輩も、本読みそうだなあ。
今のところ、他の男子に特に候補がいないから、ついこの2人の顔を思い浮かべた。
ダメだ、まだ簡単に絞っちゃいけない。
「読書いいね。わたしも本好きです。
雨だれさんの好きな食べ物はなあに?」
わたしは『雨だれ』さんと同じ黄色いチョークを手に取った。
夕暮れに染まるしんとした第二音楽室に、カツカツカツとチョークの音だけが響いた。
それはなんだか、すごく特別で神聖なことをしているみたいで、胸がドキドキした。