ラブレター【完】
3:はじめての恋
5月も終わりになる頃には、部活の練習がパート練習から全体練習に移った。
全体練習だからサボれないので、ピアノを弾きに行けないどころか、第二音楽室に行けるのは下校時間ギリギリだ。
部活に出る前に、先に第二音楽室に行くのも手だけれど、それはしないと決めた。
だって『雨だれ』さんと鉢合わせになりたくないもの。
わたしは『雨だれ』さんの正体を知りたくて仕方ないけれど、そんな偶然に見かけて知ってしまうのはなんだか嫌だった。
『雨だれ』さんと黒板で文通して、彼について少しずつ知って、誰なのかをちゃんと当てたいのだ。
変なズルをして終わらせたくない。
終わらせたくないと思うのは、この奇妙な文通が楽しくて仕方ないせいもある。
誰なのかわからないのに、返事を待つのが楽しくて、返事が来たらドキドキする。
本当に、まるで恋をしているみたい。
あれから『雨だれ』さんについて新しくわかったことは、たくさんある。
好きな色は青、好きな季節は夏。
好きな動物は犬、得意な教科は数学。
運動は得意で、足が速いらしい。
一度性格について尋ねたら、「きみから見る俺はどういう性格なの?」って返ってきた。
「誰なのかわかんないのに聞くの?」と返したら、次の日「確かに。わかるわけないね(笑)」と返ってきた。
一人称は俺らしいけれど、そんなの男子のほとんどがそうだから、役にも立たない情報だ。
情報は増えたけれど、依然として誰なのかはわからない。