ラブレター【完】
「顔も名前もわからないって、どういうこと?詳しく話してくれる?」
ママに言われて、わたしは黒板の文通に至った話を初めのラブレターから順番に説明した。
「……だからね、『雨だれ』さんはまだ誰なのかわかんないんだけど、でもわたし、『雨だれ』さんのこと好きみたいなの」
「ふふ、そっか。ふふふ」
ママはとても楽しそうに目を細めた。
「ねえママ、わたしやっぱりおかしいのかな?」
「そんなことないんじゃない?……ふふ、懐かしいなあ」
ママはそう言って、少し遠い目をして笑った。
「懐かしい?」
「うん。ママもね、似たような経験があるの。実はね、パパとママは6年くらい離ればなれになって、6年ぶりに話をしたのは、SNSだったの」
「え、そうなの?」
「うん。……ママはね、今どんな顔でどんな声で話すのかもわからないパパと、文字だけのやり取りをして……だけど、もう一度パパに恋をしたの」
ふふ、とまるで少女のような顔で、ママは可愛らしく笑った。
「そうだったんだ……」
「理奈、恋は気持ちで……心でするものなの。顔がいいから好き?違うよね。だから、理奈がその『雨だれ』さんを好きだと思うことは、全然変なことじゃないよ」
ママは優しい口調で言った。