ラブレター【完】
「そっか……安心した。わたし頭が変な子なのかと思っちゃった」
わたしが言うと、ママは「まあ、理奈はママに似てるからちょっと変なのかもね」と笑いながら立ち上がった。
てっきり料理を再開するのかと思ったら、ママはリビングのピアノの前に腰かけて、蓋をゆっくりと開く。
「ママ、ピアノ弾いてくれるの?」
「なんかね、理奈の話聴いてたら弾きたくなっちゃった」
「なに弾くの?」
「……理奈、『雨だれ』さんが誰なのか、よーく考えなさいね」
「え?」
「心でちゃんと感じて。そして早く気づいてあげて」
ママの指が、すごく優しいタッチで音を紡ぎ始めた。
初めて聴く、ママの雨だれ。
わたしがいつも頑張って規則的に叩くラ♭の音。
ママのそれは少し不規則なリズムで、まるで水滴が落ちないように耐えて耐えて、でもポタリと落ちてしまう様のようで……。
儚くてすごく綺麗だな、と思った。
誰なのか、よーく考えなさい。
心でちゃんと感じて。
ママが弾いてくれる雨だれを聴きながら、顔も知らない『雨だれ』さんの姿を、目を閉じて、心で感じたままに想像してみた。
そうしたら、それは星川先輩でも透くんでもなかった。
なぜかわたしの脳裏に浮かんだ人物は。
…………なんで?!
わたしはぶんぶんと頭を強く振った。