ラブレター【完】
1年生達の歌が終わって、いよいよわたし達2年の出番だ。
前のクラスが発表している間、わたし達は舞台の下の隅っこで待機していた。
「鈴木」
指を温めるためにグーパーと両手を握ったり開いたりしていたわたしの元に、透くんがやって来た。
「緊張してない?」
「わたし本番は絶対ミスんないから大丈夫」
「あはは、心強いな。じゃあよろしくね」
「うん。透くんも、指揮よろしくね」
わたしが言うと、透くんの眼鏡の奥の賢そうな切れ長の目が、柔らかく弧を描いた。
やがて前のクラスの歌が終わって、いよいよわたし達の番。
クラスメイト達がぞろぞろと壇上に上がる。
「指揮者、雨宮透くん。ピアノ、鈴木理奈さん」
わたしはピアノの前、透くんは舞台の真ん中で、会場のみんなにペコリとおじぎをする。
椅子に腰かけて楽譜をセットしたら、透くんが手を大きく上に上げて、わたしに目配せした。
透くんと呼吸を合わせるように、ぴったり同時に大きく息を吸い込んで……。
彼の手が動き出すのを見なくてもわかる。
わたしは迷いなく、出だしから賑やかな前奏を弾き始めた。
音楽の時間に練習していた時から、いつも思っていたけれど。
きっとこんなに息を合わせられる人は、透くん以外にいない気がする。
もしも付き合ったら、すごく楽なんだろうなあ。
ねえ、透くんが『雨だれ』さんなの?
だとしたらわたしは、透くんに恋をしてるの?
でもそれは、やっぱりなんだかピンと来なかった。